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大阪高等裁判所 昭和31年(ツ)2号 判決

上告人 中村寛三

被上告人 国

訴訟代理人 河津圭一 外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は、

原判決は登記簿謄本(甲第一号証)記載の事実即ち登記簿原本記載の事実を即ち京都市下京区河原町通松原上る三丁目市之町二百三十八番地の一宅地三坪二合一勺が誤記であつて実際は二坪に過ぎない旨を単なる推測と検証に於て現状の現況が約二坪にしか見えないとの外観的見解、上告人以前の所有者であつた大石平三郎及び岡田麟之助が之を実測しなかつた。亦上告人も実測せなかつたから公簿上よりも一坪二合一勺余りが不足しても測量の誤差として甘受すべきだとの趣旨で認めるが如きは極めて大胆無暴なる認定である、登記簿原本は極めて信憑力の大なるものである、之を措信せずして今日の不動産の確認が何によつて定まるべきか不動産法上の憲法とも称すべき登記簿上の記載を如上の如き一片の推測に依つて之が誤りなりと断定するが如き完く暴挙と云うべきである。原判決がかかる認定を為す為めには尠くとも右土地の分割当時の実測者を取調べる必要がある。若し之を取調べる事が不可能である場合においては依然として公簿上の記載即ち三坪二合一勺があく迄正当のものと認めざるを得ない。否、認めるのが当然である。原判決はかかる不法を犯した判決である。元来原裁判は確認訴訟であつて形成訴訟ではない。然るに原判決は当事者の求むる確認を逸脱して形成判決を為したもので明かに違法である。即ち裁判の範囲を逸脱したものである。かかることは憲法に規定す財産権の侵害である。即ち憲法二十九条違反であると云うのである。

思うに原判決の行文は迂余曲折その云わんと欲する所を卒直に表現しおらざるの嫌ないでもないが、その要点とするところは判示諸証及び之によつて認定した事実に依つて本件登記簿上(甲第一号証)の土地の範囲はこの公簿上の記載に拘らず実は二坪前後の現に上告人の占有している部分にのみ止るものであり従つてこれよりはみ出てい本件係争土地は右公簿上のいわゆる三坪二合一勺に該当せず、されば本件土地の所有権が上告人に属することは本件登記簿の記載のみ以ては認め難く結局本件土地が上告人の所有であるとする上告人の抗争事実は認められないとした趣意であることは原判文の全体よりこれを諒するに難く無く、原判示の証拠資料を参酌すればさ様な判断に到達し得ないわけのものではない。

而して不動産登記簿上の記載は必ずしも事実に吻合するわけのものではなく、裁判所は其の記載通りの認定をしなければならないものでないと同時に其の記載と異る事実を認定するに妨あるものでもない。原判決は判示のような事情によつて本件登記簿上の記載が事実と異るに到つたことを認定したものであつて、そのように認定すること決して不当と論じ得べきものではないのみならずこの場合論旨のように本件分割当時の実測者を取調べなければならないものでもない。

畢竟上告論旨の大半は原審の専権行使に属する事実認定証拠の取捨選択の自由を批議するだけのものであり採るに足りない。

なお原判決が当事者の求むる事物の範囲を逸脱して形成判決を敢えてし憲法違反の違法ありという上告論旨に到つては原判決が唯単に上告人の請求を排斥した第一審判決を認容したるに止り新な権利関係を生ぜしめたものでない以上採用に値せざる所のものである。

さすれば本件上告は理由なきにより之を棄却すべきものとし訴訟費用の負担に付き民事訴訟法第八十九条を適用し主文のように判決をする次第である。

(裁判官 下飯坂潤夫 松村寿伝夫 相賀照之)

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